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郵政民営法解説
  • 緊急シンポ「郵便局を救え」が開かれる。早急な改革法案の成立を提言

郵政民営法解説
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■村中 智津子 Chizuko Muranaka
 ジャーナリスト、通訳・翻訳家
鎌倉育ち。読売新聞英字新聞部、フジテレビNY現地法人フジサンケイ・コミュニケーションズ・インターナショナル勤務を経て2009年からスイスのローザンヌに在住。著書に『ニューヨーカーはどこまで強欲か』(扶桑社、2009年)がある。

方向性が定まらないまま低空飛行している欧州経済を横目に、161年目を迎える国営事業のスイス郵便局「スイスポスト」は、すこぶる健在だ。
ポストや郵便局の看板、郵便配達人の制服や自転車、バイクなどイメージカラーは黄色で統一されている。
郵便局は郵便のほか預金口座や年金受給、生命保険、住宅ローンなど銀行保険業務も幅広く行い、文房具や携帯電話、本や雑誌も購入できるワンストップショップ。食料品はないが、日本のコンビニに近い感覚だ。
また、スイスポストはアルプスの山々の谷間の村々や市営バスが通らない郊外では郵便配達ルートでのバス交通「ポストバス」も運営し、国民にとって極めて身近な存在だ。
スイスの国土は約4万1300平方キロメートル。九州より若干狭く、人口は九州の約半数にあたる約779万人。郵便局の数は郵便計測器がある「角のたばこ屋」のような代理店を含めて全国で3600軒。平均2・6キロメートルおきにアクセスポイントがある計算になる。
さらに郵便に関してのデータを見ると、2010年で手紙は14億通、そのうち97%が翌日郵送されている。小包数は1億個を超え、これも98%が翌日に宛先に到着していて効率はよい。


通信との合併、分離を経て会社組織に近い経営に

スイスポストの歴史はスイス連邦設立の翌年、1849年元旦にさかのぼる。1910年までの最初の60年間で手紙や小包、小切手送付など取扱量は当初の20倍に増えたものの、第一次大戦の初期に赤字となる。業績回復を目指し、当時のニューメディアである電信電話部門を統合して1928年、スイス郵便電信電話公社となった。黄金時代の始まりである。
そして1980年代、郵政と通信事業の独占が批判の矛先となる中で、宅急便や速達に海外事業者が参入してくるようになった。世界的な民営化の波はスイスにも押し寄せ、1998年元旦、テレコム部門がスイスコム株式会社として一気に独立民営化された。残った郵便部門はスイスポスト公社と改名。最高経営責任者が任命され「顧客重視で利益、革新志向、長期価値の開拓」など連邦政府の設定した目標に沿って、役員会が幹部組織となるなど、私企業に近いマインドで経営されるようになった。


4大カテゴリー7事業グループ

スイスポストの2010年度の営業収入は87億3600万フラン。利益は前年比25%増を超える9億1000万フランで不況知らずだ。国営だが独立採算制で昨年度の利益から局員の年金制度に1億フラン(約85億円)を投資し、オーナーである連邦政府には2億フランを還元することを提案している優等生でもある。
多岐にわたる事業は内容によって小包や速達を扱うロジスティックス、銀行保険業務のリテール・ファイナンス、「ポストバス」とよばれる公共交通、郵便や新聞など小売部門のコミュニケーションに4分割される。
実際の事業は7グループに分かれている。内訳は、ポストバス、銀行保険部門のポストファイナンス、ポストメイル、ポストロジスティックス、海外に進出したスイス企業を顧客に本国との宅配便を請け負う国際部門、デジタルサービスを主眼としたスイスポストソリューションズ、最もおなじみの郵便と郵便局で販売されている本や電話などの営業部門となっている。


稼ぎ頭の銀行保険部門

ポストファイナンスは、昨年度の利益のうち61%を占めている稼ぎ頭だ。かつては送金だけを扱っていたが、電話部門が独立する1年前の1997年から個人と企業を顧客にした総合金融業務を行うようになった。顧客数は280万人。預金高は2006年からほぼ倍増して今や900億フランを超え、スイス国内で4番目に大きい金融機関となっている。インターネットで送金などが行えるe―バンキングの利用者は130万人にのぼり、この分野ではトップだ。
銀行の支店がない遠隔地でも郵便局がない村はない。最も身近な銀行であり、国営事業というのもポストファイナンスの信頼性の裏付けになっているのだろう。預金高ではまだ4番目だからだろうか、国が銀行保険業務を行うことへの批判は耳にしない。国に対する期待度と競争に関する概念が日本やほかの諸国とは異なることを反映しているようだ。


アルプスを走る伝統のポストバス

スイスポストの広報スポークスマン、マリアノ・マッセリーニ氏は、ポストバスは「スイス人の誇りだ」と胸を張る。古き良き田舎と美しいアルプスの風景を連想させて、ノスタルジックな思いにひたるのだという。同部門は広告価値があるだけでなく、営業的にも成長部門で収入も伸び、黒字にも貢献している。
アルプスの山間部はもちろん、ちょっと市街を離れた車も人通りも少ない道路脇。見かけるのはのんびりとはべっている牛とポストバスの黄色の看板のバス停だ。1849年の郵便局創成期には馬車から始まり、1906年にバスに変わった当時も乗客は手紙や小包と一緒に旅し、車が故障すれば宿に滞在して待つというおおらかさ。郵便馬車の御者が3音が出るラッパを吹いて郵便を届けていたころの名残で、ポストバスのロゴマークにはホルンのようなラッパの絵が付いている。
どんな場所にでも郵便を届けるのは国家使命。そのルートを使って人も運ぼうという考えはなんと効率が良いことだろう。ポストバスは全国800路線。総長1万1000キロメートルを超える路線に1万4124のバス停がある。車両数は2100台、乗客数は年間のべ1億2000人に達している。
アルプスの最難関であるゴッタルド峠を抜けるルートはローマ時代から欧州の南北をつなぐ道として有名だ。標高2478メートルとスイスで最も標高が高いバス停を通過し、氷河の洞窟見学や有名ホテルでの昼食を含めた日帰り観光ルートも人気になっている。





デジタル時代の新サービス

スイスポストのモットーはダイナミックさと柔軟性、そしてイノベーション。親しみやすさと安全、信頼性というブランド力を最大限に利用して新しいサービスを拡充している。
郵便局の窓口時間が不便だという問題を解決するため、2001年から郵便局を一部減らし、その替わりに日本で言えば「角のたばこ屋」にあたる新聞・雑誌、たばこ、駄菓子の販売店を、郵便局エージェントとして休日や早朝、夜間のサービスを行えるようにした。そこでは郵便や小包の重さを自分で測って切手が印刷される機械があり、窓口で清算するのだが、ポストファイナンスのATMカードがあれば現金引き出しもできる。
インターネットの普及で電子メールが主流になるにつれ、郵便の量が減ることは必至だ。スイスポストによると、2006年からスイスでの郵便量は15%減った。郵便量の年間1%の減少は1300〜1500万フランの減収につながるという。
しかしデジタル時代による減収を嘆くのではなく、時代の流れを有効利用して新しいサービスを提供するのがイノベーションだ。郵便で送られた手紙をデジタル化して携帯電話やラップトップコンピューターで受信できるようにする「デジタル郵便箱」サービスのほか、主に法律事務所など、秘匿文書を大量に送る必要がある企業向けに特許技術を使った方法で安全かつ確実に電子メールを届ける書留郵便の電子版とも言える「インカメール」サービスも始まっている。個人向けには好みの新聞ページの組み合わせをカスタムメードするアプリケーション「マイ・ニューズペーパー」も数カ月以内に導入するという。


スイスで2番目の大雇用主

スイスポストの従業員数は、海外勤務の7740人も含めて6万1428人。スイスの大手スーパーマーケット網「ミグロ」に次いで国内で2番目に大きい雇用主となっている。従業員の3分の1に当たる2万人が山間部や遠隔地での郵便配達に携わっている。男女比は52・5%が男性で若干男性が多いが、個人や家族生活との両立を支援するため、パートタイム勤務が48%と多いのが特徴だ。
パートタイムは女性の方が多く、国全体では保育所不足だが、郵便局員に関しては都市部で幼児150人の保育施設を確保している。また、職業訓練のための若い見習いを総局員の約5%に当たる数で受け入れて若いスタッフを雇用している。
営業費用のうち半分以上を従業員コストが占めており、人件費の高さは突出している。しかし、マッセリーニ広報官によると、郵便局員は労働組合員で、法律で保護されているため解雇は基本的にないという。機械の導入による無人化やコスト削減の結果、ある部署で人員の余剰が出た場合、年金など有利にした早期退職もあるものの、ほとんどが必要な訓練を受けて他部門へ異動するという。



銀行業務の法人化

巨大化した郵便局だが、銀行業務など競争が激しい分野で民間企業と互角に戦うためにはどうすればよいか。ポストファイナンスは昨年12月に可決された郵便組織法により、2013年をめどに連邦政府が100%株主となる有限会社となる予定だ。銀行業務は、これまでは局内の自主規制組織が監視していたが、これも今年12月からマネーロンダリング規制を始め、段階的にスイス銀行監督当局の監視下に入る。
銀行保険部門の法人化は分離民営化の準備かとも思えるが、広報のマッセリーニ氏は、スイスポストの事業分離や民営化という考えは一切ないと断言する。
スイスポストの長寿健康の秘訣は、時代の流れを先読みして進化し続けること。長所である伝統と信頼性をブランドとして伸ばし、技術革新と時代の流れを受け入れてサービス内容を変革して生き延びる方法は、民間企業や個人も大いに参考にできそうだ。


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